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天性の「美味しい!状態に執着心」がある東京下町に棲息するおばさんのお料理・お菓子・道具・食材の他、散歩の記録を綴った日記です。by真凛馬


by mw17mw

美しいもの・懐かしいもの・緊張-アヴィグドル・ダガン

美しいもの・懐かしいもの・緊張-アヴィグドル・ダガン_d0063149_23173096.jpg私の友人で、大学卒業後、ずっとチェコ語を習っている女性がいる。
その教室で、チェコの人気作家の本を訳して出版することになり、彼女も2話を担当。
本が出来上がったからと、送ってくれた。

その本の作家が、アヴィグドル・ダガンという人。(私は今回初めて知った。)
1912年生まれというのは、日本で言ったら、明治45年生まれのユダヤ系チェコ人なのだが、戦後、イスラエル人になったとか。
とても才能豊かな人で、詩人でもあり、チェコでもイスラエルでも外交官として活躍。
年金暮らしとなった65歳から、本格的な執筆活動に入ったとのことだが、一番自分の気持ちを表現できるチェコ語で、詩や小説を書いたとのこと。
(詳しくは、Wikipediaで引いてください)

日本の暦で、大正・昭和を生きてきたというのは、日本人でも激動の時期であるが、ユダヤ人でヨーロッパで生きていた作者には、すさまじい時代であったに違いない。(第二次世界大戦中は、ロンドンに亡命していたとのこと)

しかし、文章を読むと、自分自身の苦労や苦悩を感じさせずに、人間的感情を持ちながらも、一つひとつの出来事を骨太で崇高な精神力・ユーモアのセンスを交えながら、描写しているのがわかる。
(どこかに、哲学を持った小説家と書いてあったような気が...)

アヴィグドル・ダガンの著書の翻訳は、「宮廷の道化師たち」と、私の友人が一部翻訳を担当した「古いシルクハットから出た話」の2冊だけのようだ。

「古いシルクハットから出た話」が面白かったので、図書館から、「宮廷の道化師たち」も借りて、読んだ。

「古いシルクハットから出た話」
アヴィグドル・ダガンは、色々な国で、イスラエル大使を勤めたわけだが、その立場で、色々な国での出来事を語るという形で、短編がまとめられている。
一つひとつ、違う主題で、一つひとつ面白い。
舞台になる国は様々だし、登場人物も殆ど異国で知り合う人ばかりだから、色々な国の人が出てきて、色々なきっかけで、それぞれの国の歴史、国同士の歴史、宗教の問題、ユダヤ人の問題が語られる。
一つひとつのストーリーも面白いのだが、読み終わると、「ヨーロッパは、やはり複雑なのだ。その複雑さを背負った上で、人々は生きているのだ」と理解できる。

どう表現していいのかわからないけれど、キリストを主題にした宗教画というのだろうか、神様の周囲に、色々な聖書の中の物語の場面を散りばめた絵画があるが、そんな感じ。
一つの絵の中に、色々な場面が散りばめられて、ヨーロッパからヨーロッパに近いアジアが描かれている感じ?

「宮廷の道化師たち」
ナチスの強制収容所の中の、ナチス司令官の宮廷で、道化師を演じるために殺されなかった4人のユダヤ人の、生まれたときから道化師に扱われるまでの話、道化師時代の話、解放され、最後エルサレムで3人がまた出会うのだが、それまでのそれぞれの戦後の話が語られている長編小説。
こちらは、読み始めると、次から次に物語が展開していくので、一気に読んでしまう。

私は、暴力・殺人・戦争物(日本の時代劇も含む)は嫌いで、見ない・読まない主義なのだが、どういうわけか、ナチス物は、結構、映画もドラマも本も見たり、読んできた。
今まで見たのは、「ホロコースト」「夏の嵐」「ドイツ家の人々」「地獄に堕ちた勇者たち」

強制収容所から救出されたユダヤ人の立場で、その解放後を書いた本は、この本が初めてかも知れない。
地獄を見た人たちが、どのような精神状態で、どのように自分の人間性・日常生活を復活していくのかを描いた、と言い切って良いのかわからないのだが、そのうちの一人の復讐劇がドラマチック。

しかし、主題は違うのだ。
書いてしまうと、本を読んでも面白くなくなるから、ここでは書かない。
ダガンは、自分なりに答えを出しているが、それは、「ま~、そう考えるしかないのか」と思える答えである。
でも、その答えが、人間が人間らしく生きていくには、一番、中庸で良いかなとも思えた。

どちらの本がお奨めかと言うと、私としては「古いシルクハットから出た話」。
「宮廷の道化師たち」まで読むと、ダガンの言いたいことがもっとはっきりわかってくる。
by mw17mw | 2008-01-31 23:22 | その他 | Comments(0)