塩谷靖子 ソプラノ リサイタル

先週の土曜日、叔父に誘われ、神谷町の聖アンデレ教会に、塩谷靖子さんの歌を聞きに行った。

叔父は、どこで、塩谷さんのことを知って、何で、コンサートに行く気になったのだろう?
多分であるが、叔父は、叔母を昨年亡くし、「千の風」という歌がとても好きなのかも知れない。
で、塩谷さんは、「千の風」を歌ってらっしゃるので、それを聞きたかったのかも。

私は、行く前の晩、塩谷さんのホームページで、生い立ちを読んたら、「目が悪いのに(「のに」という言い方が正しいとは思わないのだが)、42歳から歌を習い始め、ソプラノ歌手になった」ばかりではなく、「結婚して」「子供を産んで」「子供を育てて」と、私ができなかったことを3つもこなしてらして、「負けました~」という気分であった。

で、コンサートの感想は、「目が悪いこととその方たちへの支援」と「ソプラノ・リサイタル」の2つになるが、今日は、ソプラノ・リサイタルについてだけ書く。(視聴覚障害者への支援はまた別の機会に)

会場の神谷町の聖アンデレ教会は、勿論、コンサートホールでなく、教会なので、歌っている塩谷さんの姿は、前の人の頭越しにちょっとしか見えなかった。
(舞台という程の高さもない舞台で、その周囲に椅子が並べられた会場であった。)
塩谷さんが目が悪い方だということを感じたのは、舞台まで、前を歩くピアノ奏者の方の肩に手を置いて、歩いて行き来されたときだけ。

歌が始まる前に、叔父がこのコンサートのことを知った朝日新聞の切抜きを見せてくれた。
塩谷さんのHPを見ると、42歳で歌を始めということは書いてあったが、今おいくつなのか、わからなかったのだが、その記事に書いてあった。
(本人嫌がるかも知れないが、現在、60代前半らしい)

で、塩谷さんの歌が始まったとき、全身を使って出す声の美しさと声量にびっくりしてしまった。
聞いているうちに、「目が悪いのに、音大を出ていないのに」ということがどこかに飛んでしまい、「60歳を過ぎても、鍛えていれば、こんな全身を動かした歌を歌えるのだ」ということがすごいと思った。

何ていうのだろう、60を過ぎた方が、こんなに全身を使って何かをしているのを見るのは初めてのことであった。
「鍛えれば、60を過ぎても、こんなに健康的に力強く歌が歌えるのだ」というのは、私にとって、ものすごい驚きであった。

音大を出て、幼い頃からソプラノ歌手を目指していた人たちは、高齢になっても、歌を歌っているのだろうか?
私は、声楽の世界に詳しくないのでわからないけれど、想像するに、音大を出てプロになるソプラノ歌手は、若い頃から歌っているので、ある程度の年になったら、ピークを超え、自分の声に衰えを感じ、自然と現役を引退して、後進の指導に回るのかも知れない。

その点、塩谷さんは、声楽のスタートが42歳だから、もしかして、まだピークを迎えていないのかも知れない。
すごい、すごい、私には、できそうにもない。
私なんて、今から、「60過ぎたら、もっと体力が落ちて、根気もやる気も減退するのだろうな。もしかしたら、何か病気が発症しているのかも」なんて心配している。(笑)
でも、世の中には、そうじゃない人がいるのだという例を見せてもらった。

塩谷さんは、第一部で、日本の歌を含むポピュラーな歌を八曲、第二部で外国のクラッシックな歌を7曲、アンコールで、カンツォーネを一曲歌ってくださった。
全身を使って、これだけの量の歌を歌うのは、ものすごい体力を使うだろう。

どの歌も素敵だった。
私は、二度涙が出てきた。
一度目は、「千の風」
この歌は、テノール歌手が歌っている歌がヒットしたが、それとは、訳詩・作曲が違うもの。
普段聞く「千の風」は、良い歌だと思うが、淡々と聞ける。
塩谷さんのきれいなソプラノで、「私のお墓の前で泣かないで、私はそこにいないから」と歌われると、それが女性の声だからか、じわんと、3年半前に死んだ母を思い出し、母にそう言われているような気分になった。
私の母の声は全然違うのだけれど、女性の声で歌われると、本当に心から悲しくなってしまったのだ。
何だか、心の中で蓋をしている悲しさが出てきた感じ。

また、最後のアンコールのカンツォーネの曲のときも、何というのかな、その力強さ、明るさに感動を覚えたのかも知れない、自然と涙が出てきた。

後、以前ブログに書いた「星に願いを」も、素敵な声で英語で歌ってくださったので、私が小さい頃にテレビから流れてきたものと同じイメージで聞けたし、もう一曲、私の好きな「夏の思い出」もあったので、心から満足。

塩谷さんのコンサートを通じて、私は、塩谷さんの「強さ」を感じた。
「強い」という言葉には、色々なイメージがあるけれど、私が感じた塩谷さんの強さは、塩谷さん一代のものではなくて、強いご両親に育てられたからこその「強さ」だと感じた。

何て言うのだろう、我を通す性格や生き方も「強い」という範疇に入る、でも、塩谷さんの強さには、そんな感じは受けない。
私が受けた塩谷さんに感じる「強さ」は、私が父から言われていた言葉に繋がる。
その言葉は、言うのは簡単だけれど、実行することはすごく難しいこと。

私の父は、何かにつけて、「神様(仏様だったかも)は、人間一人ひとりに、その人が生きていけるだけのものを十分与えてこの世に送り出してくれたのだ。だから、自分が(こういう表現ではなかったと思うが、例えば)美人に生まれなかったとか、運動神経が鈍いとか、金持ちの家に生まれたかったとか、文句を言ってはいけない。仏様に、生きようと思えば、生きていけるだけのものを与えてもらって、この世に生まれたことを、感謝して大切に暮らせ」というようなことを言っていた。

きっとこの言葉は、仏教に熱心だった父の母から繰り返し聞かされた教えだったのだろうと思う。

私は、小さいときひねくれていたから、父の教えは身につかなかったし、凡人だから、その本当の意味がわかったのは、相当年を取ってから。

自分に欠けているものを強く意識し、人が持っていて、自分にはない環境を羨ましい、自分は劣っていると考えながら生きていくことは、その人の人生を暗くするのだ。

どんな人間でも、何らかの欠点があったり、不幸があったりして、完璧に幸せな人間というのは殆どいないと思う。
そのどこか欠けている不完全な人間が自分の人生を謙虚に「自分らしく」生きて行くために、やはり、「欠けているもの」ではなく、「与えられたもの」に目を向け、大切にし、自分が無事生きていけることを神様や他人に感謝する姿勢が大切なのだ。

それは、私の祖母たちの世代が、「自分で試行錯誤して、考え付いたこと」というより、仏教の教えや親の教えとして、小さいときから何度も何度も聞かされて、骨身に染み付いた「信仰」に近い教えなのかも知れない。
昔の人にとっては、それが「普通の最低限の人間としての生き方」であり、「ひたむきに謙虚に前向きに生きることこそが人間の幸せ」だったのだと思う。
そして、生き方の「信念」として、このことが身についていて、実践できるというのは、美しい「強さ」を人に感じさせる。
また、もしかしたら、こういう生き方が「上品」に繋がるのかも。

塩谷さんの歌っている姿、声を聞いていると、塩谷さんこそ、この私の父の言葉を長年実践した方のように見えた。
そして、塩谷さんのご両親が、私の父が教えてくれた教えをご自分たちの人生の中で実践できる方たちだったからこそ、塩谷さんも、その姿勢が知らず知らずに身について、ここまで来れた方なのかなと感じた。

7歳の頃から、失明したとのこと、どう考えても、それからの人生、大変だったろうと思う。
一応健常と言われる人だって、自分の思い通りに人生が動きっこない、その思い通りに動かないことにプラスオンして、目が見えないことで制約が多くて、やってみたいのにできなかったこともどんなに多かったのかと想像される。
でも、塩谷さん親子は、それに負けずに、「できないこと・思い通りに行かないこと」より、「自分ができること」を大切にして、前向きに生きてらしたからこそ、60過ぎて、家庭もあって、二人のお子さんも無事成人されて、おまけにご自分の「神様から与えられた才能」を伸ばして、という素晴らしい人生があるのだと思う。

最近、インターネットで色々なブログを読むと、女性が以前より社会進出していて、結婚しても、自分の仕事はキチっと持っていて、子供は産まないし、食事も殆ど作らず、友人関係も遊びにかける時間も独身の時と変わらず、華麗な外食ばかりで、仕事に趣味に食べ歩きに頑張っている女性たちが華やかなブログを展開している。
今の世の中から見たら、そういう女性が「スーパーレディ」なのかも知れないし、そういう生活を送っている女性たちも、自分たちは「進んでいる」と思っているかも知れない。

でも、私にとって、「スーパーレディ」は、塩谷靖子さんである。
(注:私の父も、自分で言った言葉を実践すべく頑張っていた、でも、若い頃は、思い通りに行かない人生に苛立っていた時期もあった。
そういう平凡な人だったけれど、勿論、私より人生を謙虚に頑張った人であり、良い教えを繰り返し、言葉と後ろ姿で教えてくれたことに、「有難う」と言いたい)
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by mw17mw | 2007-07-14 23:56 | 東京都内のお散歩・見物 | Comments(3)

Commented by mikefumimaru at 2007-07-15 03:53
 こんばんわ、Fumimaruです。実は私も音楽に携わって来た一人です。と申しましても、無駄に歳を重ねただけの未だ若輩者ですが、貴方のこの記事を読ませて頂いて、とても励みになりました。これからも心して音楽に携わって行きたいと、心境新たに自覚も出来ました・・・。いやあ、それにしても、本当に良い体験をされましたね。甚だ勝手ながら、私もとても良い気持ちです、、、。ありがとう。
Commented at 2007-07-15 10:17 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mw17mw at 2007-07-15 13:29
>mikefumimaruさん
何だかつたない文章に、何かを感じていただき、有難うございます。
音楽に携わってらっしゃるのですね、いいですね、羨ましいです。
(私は本当の音痴です<笑>)
「無駄に年を重ねた」という言葉、私の胸に突き刺さります。(笑)
でも、いつか、開花するときも来るかも知れないので、めげずに、「与えられたもの」の素晴らしさに気付きながら、頑張りましょう。